政治

発言の撤回

役所の文書ではあるまいし「発言の撤回」とはいったい何事か? 政治家や為政者が撤回を宣言すればすべて帳消しになるとでも言うのだろうか。それを諭すべき報道記者も「撤回は?」と当事者に差し向けるのだからいよいよ始末が悪い▼「それを言っちゃお仕舞いよ」。まさに映画の寅さんの決めゼリフの通り、言葉にしたとたん大変な事態になることがある。例えば裁判の判決。あれはあくまでも言葉による「判決の言い渡し」であって、主文の読み上げのことではない。つまり懲役4年の判決を間違えて「死刑」と言ってしまうと言葉での「死刑」判決が優先されてしまうのだ。それを正すには大変手間がかかることを私が新人記者時代、地方の裁判所の裁判官が実際に判決を間違えて慌てて言い直した折に聞いた▼古来日本では言葉に「言霊(ことだま)」が宿るとされる。神事の祝詞(のりと)やお祓(はら)い、呪術も文書ではなく言葉だ。人の魂は言葉となり人の心に刻む。易々とは撤回できないはずだ。責任ある発言を。